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2017年12月26日 (火)

時評=完全でないハザードマップ-知見基に有効活用を

だいぶ経ってしまいましたが,10月25日付け静岡新聞「時評」欄に下記記事を寄稿しました.九州北部豪雨を経ての,「ハザードマップの限界」について思うところです.
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時評=完全でないハザードマップ-知見基に有効活用を
 
 「ハザードマップ」とは,例えば国語事典(大辞林第三版)では「地震・台風・火山噴火などにより発生が予測される被害について、その種類・場所・危険度などを示した地図。災害予測地図」とある.洪水,土砂災害のハザードマップは法的に公表が義務化され,津波,火山などについても整備が進み,身近な存在になりつつある.地域の災害特性を知る上で極めて有用な基礎資料だが,様々な課題もある.
 
 ハザードマップ作成時には,災害を引き起こす現象を予想し,その影響を計算で求めることが一般的だ.たとえば「この範囲に,このような雨が降ったら,この地点での水位はこれくらい」といった計算が可能になっているが,「このような雨」の想定が極めて難しい.雨量,継続時間などの前提が少し異なれば「この地点での水位」は大きく変わってしまう.このため,「精密な計算」を行っても「正確なハザードマップ」を作ることは不可能である.示された数値等を細かく読み取って覚えたりすることは適切な使い方ではない.
 
 ハザードマップで「色が塗られているところは何らかの災害が起こりうる」と考えて差し支えない.しかし「色が塗られていないところは安全な場所」と考えるのは適切でない.
 
 たとえば,地形的に土砂災害が起こりうる場所であっても,住家等がなければ土砂災害警戒区域等には指定されない.「急斜面沿いの道だが土砂災害警戒区域ではないので安全が保証されている」などという考えは適切でない.急斜面や山地の谷筋は基本的に土砂災害に要注意である.
 
 洪水の浸水想定区域は大河川の氾濫を想定したハザードマップ整備が進んでいるが,特に山間部の中小河川については様々な困難があり,地形的に洪水が起こりうる場所でも浸水想定区域となっていないことが少なくない.今年7月の九州北部豪雨では,こうした場所で多数の犠牲者も生じている.河川と高さの変わらない場所は,基本的に洪水の影響を受けうると考えた方が良い.
 
 ハザードマップは有効な情報だが,完全なものではない.ハザードマップを活用していく際には,発行している自治体など,技術的な知見を持った人たちと情報交換を行っていくことも重要だろう.

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