2017年の災害

2017年10月31日 (火)

2017/10/26三重県多気町付近現地踏査雑感

2017年台風21号災害で,人的被害には至らなかったが,個人的に少し注目されたのが,三重県多気町長谷地区の土砂災害.台風を警戒して避難した人が集まっていた公民館が土砂災害に見舞われたものの,犠牲者は生じなかったというケース.10月26日に現地踏査した.
 
被災した公民館を下流側と,建物のすぐ上流側から見る.木造平屋建てとみられるが,上流側の壁は大きく損壊し,瓦屋根が倒れ込んでいる.屋内にも土砂や流木が流入している.「半壊」とも報道されているが,最終的には全壊の判定となるかもしれないと思うような被害状況だった.

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これについて,10月25日付け朝日新聞(三重面)は次のように伝えている.
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公民館に避難した住民らによると、22日は夕方から土砂降りの雨で、小学生を含め13人が避難していた。異変があったのは午後10時すぎ。停電とほぼ同時に、ドアから赤い泥が流れ込んだ。地響きとともに「ドーン」「ガラガラ」という雷のような音や、「バキバキ」という音がした。住民は「早う逃げや」などと声をかけ合い、近くの民家に逃げた。3、4分の間隔で衝撃が2回襲ったという。1971年にも付近で土砂崩れがあったため、住民は異常な物音がしないか警戒していたという。逵昭夫・自主防災会長(73)は「過去の教訓があるから逃げられた」。
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被害状況や,この記事の内容から考えると,「土砂災害の前兆現象」を察知し,緊急的な避難に成功して難を逃れた事例,ととれなくもない.人的被害が生じなかったことは幸いだと思う.
 
しかし,「多気町防災マップ(平成26年)」を見ると,この長谷公民館の位置は急傾斜地崩壊危険箇所の範囲内にあり,土石流危険区域のほぼ「縁」に当たっていることがわかる.長谷公民館は「第一次避難所」とされている.このハザードマップによれば多気町における第一次避難所とは,「小規模災害時に開設する一時的に避難するための避難所」とのことで,「まずはじめに第一次避難所への避難を検討してください.災害の状況に応じて,危険がある場合は,町が優先して開設する第二次避難所等に避難してください」と解説されている.そして,長谷公民館は「急傾斜地崩壊危険箇所」であり,災害に対して危険がある可能性があることも表記されている.

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つまり,長谷公民館が土砂災害に見舞われたことは,「想定外」とか,「あるはずがない」ことではなく,十分ありうることだったと言える.実際に発生したのは,ハザードマップで直接想定されていた急傾斜地の崩壊ではなく,土石流危険渓流ともなっていなかった公民館北西のちいさな沢からの土砂流出だが,公民館周辺に複数の土砂災害危険箇所が示されていたことから考えると,発生した事象が「想定外」とは言えないと思われる.下の写真は,崩壊源東部を見上げたものと,上流側から公民館方面を望んだもの.

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したがって,あえて厳しく考えれば,風水害の危険性がある際に,この公民館に「避難」することは,必ずしも適切ではないことは予見可能であり,少なくとも「成功例」と考える事は適切でないように思う.
 
無論,こうした中山間地で「確実に安全な避難所,避難場所」を,徒歩でも移動が困難でない近隣の位置に確保することは非常に困難を伴う.この公民館に避難していたことが「誤ったことだった」とは言えないと思う.不測の事態がないか警戒していたなど,可能な範囲での対応は取っていたとも思う.しかし,今回土砂流出の速度がたまたまゆっくりであったことに救われている面もあると思う.土砂災害の「前兆現象」とよく言われるが,あれは「前兆現象」と言うよりは「発生情報」である.土石流等の速度(数十km/h)を考えると,覚知したとしても,残された時間は秒単位でしかない.「前兆があったら行動」では手遅れとなる危険性が高いと思う.

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反感を持たれるだろうとは思うが,それでやはりあえて言いたいが,これは「防災意識を高く持った共助の効果」というよりは,「偶然」の結果だと思う,ただし,ではどうすればよかったのかという「正解」もない.何を重視するか,最終的には各自が考えるしかないと思う.

2017年10月29日 (日)

2017/10/26三重県度会町付近現地踏査雑感

2017年10月26日(木) 本日の現地踏査より.三重県度会町鮠川,車で県道を通行中,洪水に巻き込まれて人的被害が生じたと思われる場所.宮川の支流部に繋がる谷底平野.県道は台地から谷底平野に下り,再び台地上に上がる形.台地上からの比高は約15m.写真手前から奥に走行したと推定される.

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県道は,谷底平野の最も低いところで約3m盛土されていた.浸水痕跡が不明瞭だったが(泥が少ない),おそらく道路面から深いところで約1m浸水したと思われる.流木や土砂,大きな礫は確認できず,浸水のみ(流れはそれなりにあっただろう)が見られたものと思われる.

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この現場付近で県道は大きく曲がっており,西側から来た場合,浸水していることに直前まで気がつきにくい状況だったと思われる.無論このような場所は至る所に無数にあり,特別に危険だとか危険を放置していたとか管理が悪かったとか,そんなことは全く思わない.

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写真や図をまとめるとこんな感じ.こうした場所で人的被害例は時折見られる.前述のように特別な場所ということではなく,対策といってもきりがない.雨風激しいときになるべく動かない,という原則を挙げるのが先決かと思われる.

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なお,国土交通省「重ねるハザードマップ」を見ると,この場所は浸水想定区域であり,「想定外の場所」ではない.とはいえ,車で移動中にそうした危険性を知ることは容易ではないだろう.

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2017年10月25日 (水)

2017年台風21号による静岡市清水区沿岸部の高潮・高波被害の簡単な現地踏査

今回の台風21号では,太平洋側の広い範囲で高潮及び高波による被害が(大規模とは言えないが)各所で見られたようだ.静岡市内の沿岸部を本日10月24日に少し見てきた.

清水港周辺 goo.gl/F7Ucq4 確かに浸水痕跡が見て取れる.植え込みの所に浮遊したと思われる木などが.この付近は明瞭な防潮堤はなく,海から遮るものはない.ただし浸水痕跡が見られる範囲は限定的で,住家のある範囲に浸水等被害は確認できない.

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由比漁港 goo.gl/xE3aSa 道路の舗装面が流失している.洪水などの被災地でよく見る光景で,浸水により舗装面の下まで水が入り,舗装面が浮き上がって流されたものか.この付近も,集落は高所または防潮堤の陸側にあり,住家には被害がない.

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由比地区南側,静岡県内ではよく知られたビューポイント「さった峠」の麓.スマル亭というそば店 goo.gl/dmau2c が損壊.隣接する2棟の建物も海側に損壊が見られた.ちなみにスマル亭は静岡市周辺にいくつかある店で,格別うまくはないが私は好きである.

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スマル亭隣接建物の損壊状況,コンクリート造なのか,壁面は損壊しておらず,柵?の一部が損壊.また,なにかの収容ボックスが基礎コンクリートごと倒れていた.

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スマル亭の建っている位置の地盤高さは,海面からの比高約4.5m,地盤から約2.0mの防潮堤があり,さらに建物の海側にはもう1本高さ約2.0mの擁壁がある.地盤から約3.0m付近までの壁面が損壊し,建物反対側まで波が突き抜けた形跡が見られた.人的被害は確認されていない.

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2017年9月25日 (月)

2017年9月17日の東九州での豪雨に関するメモ

2017年9月17日の東九州での豪雨について簡単に整理した.
 
17日24時の72時間降水量分布.「山の方で大雨」ではなくて,大分県南部海岸付近から宮崎県では海岸と九州山地の中間付近が多雨域.72時間降水量は少なくはないが,この地域としては時折ある程度.極値更新は佐賀関(大分),赤江(宮崎).話題となった佐伯,臼杵付近も極値更新はしていない.

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15~17日の間の最大3時間降水量.大分県南部は海岸付近,宮崎県では北部山間部が強い印象.こちらは佐伯が更新.

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AMeDAS佐伯の9/15~17の降水量推移.降雨は17日朝から夕方までのほぼ12時間.1時間50mm以上の非常に激しい雨が3時間,80mm以上の猛烈な雨も1時間記録.豪雨のピークが午前と午後の2回あったようだ.

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AMeDAS佐伯の9/15~17の降水継続時間毎の最大値と,過去の記録との比較.5時間以下の降水量や,12時間降水量で1976年以降最大値を更新.記録的な大雨ではあったが,7月の朝倉のような,あらゆる角度から見て過去の記録を大幅に更新するタイプの大雨とまでは言えない.

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津久見市内の大分県設置の「福山」観測所の9/15~17の降水量推移.24,72時間降水量は佐伯より大きい.過去の記録がないので直接比較はできないが,3,24時間降水量は佐伯の1976年以降最大値よりは大きい.1時間50mm以上が4時間だが,80mm以上に達してはいない.

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総じて見て,降水量記録は,大分県南部としてはやや大きな記録となったと思われるが,極端に大きな記録とまでは言えなさそう.主に短時間の降水が激しかったケースとみられる.また,特に大きな記録が見られた範囲は限定的.宮崎県側も値は大きく見えるが,この地域としては特筆するほどではない.

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こちらは気象庁HPから,佐伯の9月及び9/17の潮位変化.17日は大潮に向かうところで潮位はやや高め,台風接近の午後は満潮.ただし潮位偏差はピークの16時頃で0.5m程度.高潮による激しい被害事例というよりは,主に豪雨による洪水というところではなかろうか.

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2017年8月31日 (木)

2017/8/28朝倉市付近現地踏査雑感

8月28日の朝倉市内現地踏査から.朝倉市杷木松末・石詰集落と中村集落の中間付近 https://goo.gl/Tacmm6 から両集落を見る.両集落では,人口116人(2010年国勢調査)の集落で二十数カ所の住家が流失した.石詰,中村集落のある乙石川流域は,7月下旬の調査時には接近困難だった.この付近では啓開すべき道路すらなくなり,やや高いところに新設の仮道が作られていた.

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上記の写真から0.7kmほど上流,朝倉市杷木松末・中村集落付近.だいたいこのあたり.https://goo.gl/qGfhrY ここから上流約0.8kmほどのところに乙石集落があるが,ここから上はまだ仮道も開設されていなかった.

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朝倉市杷木林田付近,だいたいこのあたり https://goo.gl/toHuA9 の赤谷川「7月5日以前の河道(橋が埋まってる)」と「現在の実質的な河道」.なんというか,このまま現河道が下刻して,実質的な河道になっていくことになるのではなかろうか.

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2017年8月16日 (水)

「平成29年7月九州北部豪雨」現地調査速報会(8/24東京・日本気象協会)

静岡大学防災総合センター牛山研究室では,「平成29年7月九州北部豪雨」による災害に関し,一般財団法人日本気象協会と合同で現地調査を行いました.去る8月7日に調査速報会を実施する予定でしたが,台風5号の影響により中止していました.このたび,8月24日にあらためて実施することとなりましたので,ご案内します.
 
「平成29年7月九州北部豪雨」現地調査速報会
 
■概要
  • 日時:平成29年8月24日(木) 14:00~16:00 (開場13:30)
  • 場所:一般財団法人日本気象協会 第1・2会議室(東京都豊島区東池袋3-1-1 サンシャイン60・55階)
  • 定員:先着50名程度
  • 参加費:無料
■内容
  • 気象メカニズムの解説、現地調査結果の報告(仮) (日本気象協会  30分程度)
  • 平成29年7月九州北部豪雨による人的被害発生状況・発生場所の特徴(静岡大学防災総合センター牛山素行教授  60分程度)
■申込
下記の申込用紙(Wordファイル)の内容をご確認ください.準備の都合上、8月22日(火)までにお申し込みくださいとのことです.

2017年8月 4日 (金)

「平成29年7月九州北部豪雨による災害・現地調査速報会」資料を公開

静岡大学防災総合センターでは,8月4日に「平成29年7月九州北部豪雨による災害・現地調査速報会」を実施しました.速報会で,牛山が使用したスライドの抜粋・縮刷を公表しました.

平成29年7月九州北部豪雨による人的被害発生状況・発生場所の特徴(速報)

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なお,本災害に関しての各種資料は,下記に整理しています.
 
2017年7月5日の九州北部の豪雨による災害に関するメモ

2017年7月24日 (月)

2017/7/22朝倉市付近現地踏査雑感

7/22の現地踏査から.先週大量の人や車両が溢れていた朝倉市杷木星丸付近は少し静かになったような印象.https://goo.gl/RQjcjq から上流側を見る.この視界内で少なくとも住家5~6箇所が流失.5箇所が流失した市営住宅は右手建物の後方.

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朝倉市杷木松末.位置図→ https://goo.gl/6xK6ck 赤谷川と乙石川の合流部付近の被害.住家3箇所が基礎地盤から完全に流失し,人的被害も生じている.後方の台地部分も侵食しているのでは.河道沿いの谷底平野部分とは言え,激しい被害.

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朝倉市杷木白木.位置図→ https://goo.gl/35GRfD 赤谷川の1本西側の小流域,白木谷川の最上流域の集落.河道沿いの住家6箇所が流失し,人的被害も生じている.土石流から洪水流に変わるあたりか.

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朝倉市杷木古賀.位置図→ https://goo.gl/H2FdS7 白木谷川の1本西側の寒水川流域上流側.流域内で住家3箇所と神社(この場所ではない)が流失.谷底平野で被害.「神社は安全」みたいな「雑で心地よい話」が私は嫌.神社にもいろいろ歴史的経緯あるでしょう.地形分類図で見るとこの神社は谷底平野(山麓の扇状地)だったので,あまり安全とは.

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2017年九州北部豪雨の災害で、最も集中的な家屋被害が生じたのは,朝倉市杷木松末の一部で,赤谷川支流の乙石川流域,石詰,中村集落ではなかろうか.川沿いにあった集落のほとんどが流失したように見える.

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写真は7/22撮影の同川最下流部,位置図→ https://goo.gl/EoYmZU なお,乙石川最上流部の乙石集落は,国土地理院の空中写真では雲がかかって見えないので,家屋被害状況はよくわからない.

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2017年7月九州北部豪雨災害では「流失」家屋が多い印象

2017年7月九州北部豪雨による災害は,人的被害もまとまった規模となりつつあるだけではなくて,家屋被害も,総数では例えば何万棟単位などにはならないように思うけど,流失・倒壊といった程度の激しい「全壊」家屋が多いような印象を,空中写真判読や現地踏査から感じる.
 
近年の災害統計では一般的に「流失」という値は出てこない(昔はあった).「全壊」といっても完全に倒壊しているようなケースはごくわずかで,概観上損壊していないように見えても継続使用困難なものなども「全壊」となる.
 
当初「床上浸水」と判断されたものが後日「全壊」「半壊」に判定が変わるケースは非常によくある.家屋被害数は発災1ヶ月後くらいに床上浸水が大幅減少し,全壊,半壊が大幅に増加する傾向が一般的.このあたりは3月に出した論文に詳述した.
 
牛山素行:日本の風水害人的被害の経年変化に関する基礎的研究,土木学会論文集B1(水工学),Vol.73,No.4,pp.I_1369-I_1374,2017.
 
したがって,見た目で明らかに大きく壊れているという意味での「全壊」家屋数は,災害発生から1ヶ月以内くらいの数字がそれに近いと考えて言い,というか実際に見ていてもそういう印象がある.これは別に批判しているのではなくて,むしろ被災した側に立った対応で,悪いことではない.
 
今回の被害について,たとえば災害約10日後の7月15日時点の消防庁資料では福岡県の「全壊」は87棟.手元の資料では今回と類似した狭い範囲の豪雨だった2014年広島では災害9日後の「全壊」が24棟.こうしてみると,今回は「明らかな全壊」が多いような気がする.

2017/7/15-16朝倉市・東峰村付近現地踏査雑感

福岡県東峰村宝珠山.位置図→  https://goo.gl/UiKihx 2017年7月15日踏査.日田彦山線筑前岩屋駅のすぐ北(というより場内)の土砂災害現場.土石流と言っていいだろう.谷の上流方で少なくとも2世帯分が基礎もろとも流失,写真手前左側の合流部対岸側で1世帯が基礎のみ残して流失.こうした典型的な土石流災害現場も少なくない.

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朝倉市杷木星丸地区.位置図→ https://goo.gl/NsWvjV 2017年7月16日踏査.山地河川洪水により,この写真の範囲周辺だけで住家が少なくとも14世帯分流失.洪水によるこれだけの住家流失は珍しく,例えば平野部での堤防決壊に伴う洪水ではあるが,2015年常総市のケースでは全部で9世帯.山地河川洪水で集中的な被害が生じた2016年台風10号による岩手県岩泉町安家地区では11世帯.両事例とも,他には集中的な流失地区は見られなかったが,2017年7月九州北部豪雨では,こうした集中的な流失が1地区ではないことが特徴.

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