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2018年3月28日 (水)

時評=「初めてだ」と言う前に-長い視野での考察を

だいぶ経ってしまいましたが,1月18日付け静岡新聞「時評」欄に下記記事を寄稿しました.
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時評=「初めてだ」と言う前に-長い視野での考察を
 
 社会的な注目が集まるような規模の自然災害が発生すると,「こんなことは初めてだ」といった声をしばしば聞く.そんなことはあり得ないとまでは言わないが,「初めてだ」と受け止める前に,立ち止まって考えてみたい.
 
 「(私自身が現実に経験した範囲では)こんなことは初めてだ」という話であれば何も違和感はない.我々自身が人生で経験することはごくわずかなことであり,その人生の中で実際に自然災害に見舞われるケースは稀である.
 
 たとえば筆者の調査によれば,2004~2016年の13年間に風水害による死者・行方不明者(以下では「犠牲者」)が生じたのは261市町村,1年あたり平均20市町村ほどとなった.これは2010年現在の区割りで計算したので,同年の全市町村数1727に対しては1.1%ほどに相当する.自分が住む市町村内で1年間に犠牲者が発生するような風水害に見舞われない可能性(確率)が99%程度と言えそうである.
 
 これを参考に簡単な計算をすると,「見舞われない確率」は50年間では約61%,100年間でも約37%となる.あくまでもこれは大雑把な計算であり,何%という数値には意味が無い.ただ,我々一人一人が身近なところでまとまった規模の風水害に見舞われることは,かなり限定的とは言えそうである.
 
 一方,同じデータを日本全国で俯瞰すれば,毎年20市町村程度で風水害による犠牲者が発生している,と読むことができる.毎年,日本国内のいくつかの場所で,犠牲者を生じる規模の風水害が発生することは「初めてだ」どころではなく「当たり前」と考えなければならない.また,それは最近になって始まったことではなく,これまでも繰り返されてきたことである.
 
 消防庁の資料をもとに集計すると,2017年の風水害による犠牲者は58人となった.これは先にも挙げた2004年以降の14年間では多い方から6番目で,格別多い訳ではない.たとえば1950~1960年代には1年間の自然災害(ほとんどが風水害)犠牲者が千人を超える年も珍しくなかった.過去には様々な災害が繰り返し発生しているが,我々はそのことを忘れてしまいがちなのかもしれない.人と比べ,自然は時間も空間もスケールが大きい.直近の災害ばかりに目を向けず,長い視野で考えていきたい.

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