私が専門的に調べている,洪水・土砂災害でどのように犠牲者が生じているか,というお話をします.1999-2018年の風水害による死者・行方不明者1259人分の集計結果です.
犠牲者を生じた原因外力で相対的に多いのは土砂災害で全体の5割弱,それに次ぐのが洪水(川からあふれた水で流された),河川(増水した川に近づいた)です.風や,海岸付近での波などによるケースは,合わせて1割程度です.「増水した川に近づいた」と聞くと,「田んぼの様子を見に行き,用水路に転落」というケースが思い浮かぶかもしれませんが,こうしたケースは全体の5-6%くらい.日常の中で車や徒歩で移動していて川に落ちたケースの方が多くなっています.
土砂災害では,土石流による被害が特に激しい様相を見せます.この写真のように,3件あった住家が跡形もなくなってしまうようなことは,決して珍しいものではありません.
土砂災害のうち,いわゆるがけ崩れでも犠牲者が生じます.この写真のように,崩れた土砂の量が少なくても,人的な被害につながることもよくあります.斜面と反対側の部屋にいるかどうかで運命が分かれるようなこともあるようです.
平野部の比較的新しい家屋では,浸水だけで家が流されて犠牲者が生じるようなことはほとんどありません.流されるとすれば,堤防が決壊した周辺などに限定されます.ただ注意が必要なのは,決壊する場所は最後まで分からないことです.堤防沿いはどこでも可能性があるとも言えます.ところによっては「家屋倒壊危険ゾーン」といった範囲が示されていることもあり,一つの目安にはなります.
堤防がないような,山間部の中小河川は洪水と無縁ではなく,むしろ破壊力は大きいとも言えます.この図のように,元あった河川が横方向に河岸を浸食し,河川沿いの家屋を流失させて犠牲者が生じることもあります.
水の流れだけで家屋が流されてしまうことは稀ですが,車や人は簡単に流されてしまいます.これは8月末の佐賀の豪雨のケース.道路を通行中の車が右手の水田の方に流されて犠牲者が生じたようです.こうしたケースをよく見かけます.
河川に近づいて亡くなるケースでは,河川沿いの道路の路肩が崩れ,それに気がつかず車が転落するケースをよく見かけます.橋は流されなかったが,取り付け部の盛土が流されてそこに転落というケースもありますし,小さな側溝で犠牲者が生じることもあります.
犠牲者全体で見ると,遭難した場所は屋内と屋外がほぼ半々.風水害犠牲者の約半数は,何らかの形で屋外行動中に亡くなっている,とも言えます.屋外行動中といっても避難中というケースは少数で,多くは様々な移動などで屋外にいたところ遭難したケースです.
何らかの避難行動をとったが亡くなった,という方は全犠牲者の1割弱です.
原因外力別に見ると,土砂災害犠牲者は屋内で亡くなった人が8割ですが,洪水,河川の水関連を合わせると7割,風や波の関係では8割が屋外です.危険な場所にある家屋からどこかへ避難することも重要ですが,移動する距離はなるべく短くした方がいいのかもしれません.
土砂災害による犠牲者は,9割弱がハザードマップ等に示された土砂災害危険箇所かその近傍(地図の誤差の範囲内程度)で亡くなっています.
一方,洪水,河川といった水関係の犠牲者は,ハザードマップ等に示された浸水想定区域付近での犠牲者は4割程度です.中小河川などでは浸水想定区域の指定が進んでいない場合がある事などが背景として考えられます.行政は何やってるんだケシカランとかは全然思いません.
ただし,地形的に見れば,水関係の犠牲者は,洪水の可能性がある低地(標高×m以下の低い土地という意味ではありません.地形分類上の低地です)で亡くなっている人がほとんどです.でも地形分類の情報は使うのがなかなか難しいです.
特に,堤防などがない中小河川では,相対的に川と同じくらいの高さにある場所は,洪水の影響を受けうる,と理解しておくのも一つの考え方かもしれません.