時評=住まい選びの条件 「防災最優先」は困難
1月29日付け静岡新聞に下記寄稿をしました.「防災最優先で暮らせますか?」と書かずに,「防災最優先で私は暮らせません」と書いて自己保身を図っております.
------------------------------
時評=住まい選びの条件 「防災最優先」は困難
今年も年度末が近づいてきた.新たな年度からは新しい土地で暮す予定の方もおられよう.賃貸,持ち家,いずれにせよ新たな住まいを選ぶとき,どのような条件を考えるだろうか.まずはどの程度のスペースが必要か考えねばならない.予算がどれくらい,も重要だ.勤め人なら勤務先へのアクセスは重要なポイントになる.生活面からは,商業施設など日常的に利用する施設へのアクセスも考慮する必要があろう.子供のいる世帯なら,学校へのアクセス,あるいはその学校の評判なども気になろう.
災害に対する安全性を考える人もいるかもしれない.地震は専門でないので詳しく分からないが,地形等から「地震に対して安全性の高い場所」を判断することはなかなか難しそうだ.ただ,建築基準が大きく変わった1981年以前とそれ以降の建物では,地震の際の被害の程度が変化していることは知られており,築年数は判断材料となりそうだ.洪水・土砂災害については本欄でも繰り返し触れているように,「起こりうるところで,起こりうることが発生する」が基本である.ハザードマップ等で危険箇所となっている場所や,河川の近くなどを避けるといった判断もあり得る.「避難の仕方を確認」より,「そもそも避難しなくても良いような場所を選んで住む」事も重要だと思う.
しかし,これら条件を満たす物件を探すことは極めて困難だろう.不動産関係のサイトで希望条件を増やすと,数千件の候補がたちまち数件程度に絞られる,といった経験のある方もいよう.災害の危険性がある居住地も少なくない.たとえば山梨大学の秦康範先生の解析によると,洪水の浸水想定区域(大河川周辺を中心に指定)の居住者だけでも2015年時点の全人口の28%に上るという.防災の諸条件を考慮となると,候補物件数は更に限定的となろう.
筆者はこれまで何度となく転居を経験したが「防災最優先」で住まいを選べたことなどない.住まい選びに限った話ではないが,日常生活のあり方を「防災最優先」で構築することは少なくとも筆者には困難だ.我々一人一人が,考えられる危険性を知った上で,何を優先するかを考え,危険性も受け入れつつ暮らしていく事が重要ではなかろうか.
« 2019年台風19号等による人的被害についての調査(速報 2019年12月30日版)を公開します | トップページ | 時評=災害への備えは人それぞれ 個々に必要性考えて »
「静岡新聞「時評」」カテゴリの記事
- 線状降水帯情報の新設に思う まず「危険度分布」活用(2021.04.09)
- 外出予定を見合わせる 災害時 被害軽減に有効(2021.02.11)
- 風水害被災現場を見る 多様な視点から記録(2020.11.27)
- 台風接近時の高潮発生 人的被害なくても注意(2020.11.24)
- 避難しない自由 個別の判断 尊重したい(2020.07.31)