台風接近時の高潮発生 人的被害なくても注意
高潮それ自体への注意喚起、というよりは、近年起こっていないタイプの災害にも要注意、というお話です。2020年9月30日付静岡新聞への寄稿記事です。
台風接近時の高潮発生 人的被害なくても注意
台風や前線の活動などの激しい気象現象により生じる災害は風水害と呼ばれ、その形態には様々なものがある。筆者が調査している1999~2019年の風水害による死者・行方不明者(以下では犠牲者と略し基本的に関連死者を除く)1373人全体で見ると、土砂災害が44%、洪水など水関連が44%、強風・高波などその他が12%の割合である。令和2年7月豪雨の犠牲者は86人で8割弱は洪水などの水関連、昨年の台風19号では同88人の7割強が水関連と、この2事例では水関連犠牲者が目立った。しかし、平成30(2018)年7月豪雨では犠牲者230人のうち土砂災害が5割強、平成29(2017)年九州北部豪雨では同41人中土砂災害が5割強。被害形態はそれぞれの事例に特徴がある。
風水害による被害形態のうち近年大きな人的被害がみられないのが高潮災害だろう。高潮は高波と混同されやすいが、繰り返し打ち寄せる波ではなく、台風などの接近時に海水面全体が高くなる現象である。特性は異なるが見た目では津波のような現象とも言える。高潮が生じると、海近くの低い土地では大規模な河川洪水と同様な状況になる場合があり、海岸付近では高潮と高波の双方の影響を受ける。
高潮による人的被害は、2004年台風16号による高松市と倉敷市での3人以降発生しておらず、まとまった被害では1999年台風18号による熊本県不知火町(現・宇城市)の12人が最後である。高潮の発生自体は珍しくなく、近年の県内でも2017年台風21号の際に静岡市の由比漁港で漁港施設が損壊するなどの被害が生じている。
高潮は干満の影響も大きく、同規模の高潮でも満潮時に重なるか否かで被害規模が変わってくる。先日の台風10号でも山口県の瀬戸内側などで高潮が生じたが、潮位上昇のピーク時刻が予想より3時間ほど遅くなった事で、予想されていたほどの潮位にならなかった可能性があることが9月16日の気象庁資料に示されている。
高潮による人的被害が長く生じていないのは、防災対策の効果も少なくないと推測されるが、偶然の結果という面もあるだろう。私たちは、直近の災害事例に目が奪われがちだが、そうした災害だけが怖いわけではない。最近起こっていないタイプの災害にも注意を向ける事が重要ではなかろうか。
※この記事はnoteにも書いています。
« 避難しない自由 個別の判断 尊重したい | トップページ | 風水害被災現場を見る 多様な視点から記録 »
「静岡新聞「時評」」カテゴリの記事
- 線状降水帯情報の新設に思う まず「危険度分布」活用(2021.04.09)
- 外出予定を見合わせる 災害時 被害軽減に有効(2021.02.11)
- 風水害被災現場を見る 多様な視点から記録(2020.11.27)
- 台風接近時の高潮発生 人的被害なくても注意(2020.11.24)
- 避難しない自由 個別の判断 尊重したい(2020.07.31)