平成28年熊本地震

2017年4月 7日 (金)

「平成28年熊本地震」関係の調査研究成果再整理

まもなく「平成28年熊本地震」から1年となります.当方では,主に地震による直接的な人的被害についての調査をし,下記論文にとりまとめました.あらためて紹介します.
 
牛山素行・横幕早季・杉村晃一:平成28年熊本地震による人的被害の特徴,自然災害科学,Vol.35,No.3,pp.203-215,2016
 
同論文の主な図表のスライドをPDFに縮刷したファイルも公開しています.
 
上記は昨年末に刊行した論文ですが,あらためて主な結果を挙げると以下となります.
  • 死者50人.阪神・淡路大震災以降の内陸直下型地震としては最大だが,家屋被害規模に対して特に多いわけではない.
  • 原因別犠牲者数を牛山ら(2009)の定義で分類すると,「倒壊(建物倒壊・部材落下・家具転倒など)」38,「土砂」10,「火災」1,「その他」1.近年の内陸直下型地震と比べ,特異な傾向は見られない.
  • 「土砂」10人のうち,何らかの土砂災害危険箇所の範囲内だった者は2人.風水害時の土砂災害では犠牲者の9割弱が土砂災害危険箇所付近で死亡していること(牛山,2016)と比べると,傾向が異なる.
  • 犠牲者のうち65歳以上の高齢者は34人(68%).高齢者率が人口構成比より高いことは阪神・淡路大震災や,近年の風水害と同傾向だが,比率がやや高い.
  • 犠牲者の性別は女性が男性より多く28人(58%).阪神・淡路大震災とは同傾向だが,近年の風水害とは逆の傾向.
  • 「倒壊」に分類され屋内で死亡したのは37人.全て建物倒壊起因で,家具転倒のみに起因する者は確認できない.また,1980年代中頃以降の建物での犠牲者は2箇所3人の可能性.
  • 大局的には近年の内陸型地震の犠牲者と同様な傾向だった事が示唆される.これまでに指摘,推進されてきた地震防災対策の重要性をあらためて認識していく必要がある.
熊本県付近では,6月に地震の被害があった地域を中心に,ややまとまった豪雨災害にも見舞われました.これについては単独の論文等ではとりまとめていませんが,下記ページに関係資料を整理しています.
 
2016年6月20~21日の熊本県付近での豪雨災害に関するメモ
 
こちらも要点を挙げると以下となります.
  • 熊本県内で死者6人が生じた.2004~2014年の主要豪雨災害(2004-2014)の42事例の内,死者6人以上の事例は26事例あり,ほぼ毎年1回以上発生している被害規模である.
  • 原因外力別犠牲者数は洪水1人,土砂5人.2004-2014と比べ「土砂」が多い可能性がある(総数が少ないため明言はできない).
  • 6人中5人が65歳以上であり,2004-2014と比べ高齢者に被害が偏在している可能性がある(総数が少ないため明言はできない).
  • 6人中5人が「屋内」であり,2004-2014と比べ「屋内」が多い可能性がある(総数が少ないため明言はできない).「土砂」では「屋内」が多い傾向があり,本事例では「土砂」が多いことから,特異な傾向ではないと思われる.
  • 「土砂」犠牲者5人全員が土砂災害危険箇所の「範囲内」と思われる.想定外の場所で犠牲者が生じている状況ではない.
「災害から×年の時だけ騒いで後は知らんぷりか」というご意見もおありでしょうが,私は過去のあらゆる災害に常に思いを向けていることは不可能です.折にふれて考えることが重要ではないでしょうか.

2016年5月 2日 (月)

平成28年熊本地震に伴う死者・行方不明者について・5/2現在メモ

5月1日までに得られた報道記事,各種地理情報等などを元に熊本地震の死者・行方不明者について整理中.公表されている直接死者数は49人,行方不明者1人.全員の遭難位置を町丁目程度まで確認,内8割はより詳細に確認.4/21時点でも集計したが,以下その後得た情報をもとに再集計した.

推定原因別に集計.8割が「倒壊」(構造物倒壊,部材落下,家具転倒など).中越は「その他(ショック死など)」を関連死と見なすかで構成比が変わる.岩手宮城だけが別で,中越,中越沖,熊本とも,比率的には倒壊が主を占める傾向は同様か. pic.twitter.com/yzYnBFcBdu

熊本地震の死者・行方不明者を遭難場所別にみると,屋内が9割以上.中越,中越沖も屋内は8割前後で,概ね同傾向.岩手宮城が別であるのも原因別構成比と同様. pic.twitter.com/2Akb9S2yxX

犠牲者の年代構成については4/21の集計 goo.gl/NzPywi と変わらない.

発生位置を原因現象別に分布図で.埼玉大学谷謙二研究室公開の「Google Maps APIv3を使ったジオコーディングと地図化」 http://goo.gl/2DW854 により作成.背景は国土地理院の色別標高図.

倒壊は広い範囲,土砂は南阿蘇の山間部のみ.益城町付近では台地と低地の境界付近に被害が集中のようにも見えるが,この付近では低地にほとんど家屋がなく,地形との関係かどうかは不明瞭. pic.twitter.com/l1JQa0Dqfx

2016年5月 1日 (日)

平成28年熊本地震に伴う土砂災害関係死者・行方不明者について・5/1現在メモ

 熊本地震において,土砂災害で亡くなった方は9人.場所は大別するといずれも南阿蘇村内の立野地区(2人),河陽地区の高野台団地(5人),長野地区の宿泊施設(2人)の3箇所となる.また,南阿蘇村の阿蘇大橋付近で斜面崩壊に巻き込まれたとみられる人が1人おり,5月1日現在行方不明のままである.

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 立野地区の被災現場は古くからの集落で,被災世帯は少なくとも1967年の空中写真で現在位置にほぼ同じ形状の建物が確認できる.土石流危険渓流の範囲内ではないが数十m程度の位置で範囲近傍にあり,土砂災害警戒区域内に位置する.図は熊本県土砂災害情報マップより.図中「431-1-001-5」の文字の付近(あえて詳述しません)が被災世帯の場所で,イエローゾーンの範囲内.

 
 高野台団地の被災世帯は,空中写真からは1997~2003年の間に建設されたと推定される.土砂災害危険箇所や土砂災害警戒区域の指定範囲ではない.長野地区の被災した宿泊施設は,空中写真からは2003~2004年の間に建設されたと推定される.この場所も土砂災害危険箇所や土砂災害警戒区域の指定範囲ではない.
 
 4月30日付け毎日新聞によると,「熊本県によると、高野台団地と火の鳥温泉周辺の斜面は傾斜が30度未満で、過去に地滑りが起きた形跡がなく、土石流を起こしやすい地形でもないことから、警戒区域の指定を見送っていた」とのことで,土砂災害警戒区域の指定対象外の場所だったようである.
 
 土砂災害警戒区域等は有効な情報ではあるけど,その対象とならない場所でも土砂災害が起こることは,他の災害同様,当然あり得ることで,「見逃し」を少なくするための技術開発がさらに必要なことは当然のことである.しかし,立野地区の被災世帯に見るように,地震起因の土砂災害であっても,全く予想もつかないようなところで発生するケースばかりではない.既存の土砂災害危険箇所や土砂災害警戒区域といった情報は,地震による土砂災害の発生箇所を警戒する上でも有効だと思われる.

 豪雨災害についての調査ではあるけど,私の調査では土砂災害の犠牲者の9割前後は,土砂災害危険箇所の範囲内もしくはその近傍で発生している. http://goo.gl/Y3yLbJ 範囲外の場所での被害も生じることは当然あり得るが,大局的には有効な情報として活用すべきと思う.なおこの調査で土砂災害危険箇所「範囲外」と判別された犠牲者が比較的多かった事例の一つが,2012年九州北部豪雨の阿蘇市である.豪雨起因の土砂災害も含め,火山地帯の土砂災害警戒区域等指定にはさらに工夫が必要かもしれない.ただし,技術的な方法論については,専門外なので詳述できない.
 
 また,阿蘇大橋付近の斜面崩壊のように,住家等がない場所では地形的に土砂災害の可能性があっても土砂災害警戒区域等の指定対象となりにくいことも注意が必要.土砂災害警戒区域等ではないから,山間部であっても安全な場所という訳ではない.ハザードマップを見るだけではなく,土砂災害関係部署から情報を得て考えていくことが重要だろう.

2016年4月22日 (金)

平成28年熊本地震に伴う死者・行方不明者について・4/21現在メモ

4月21日までに得られた報道記事などを元に推定した熊本地震の死者・行方不明者の発生位置(赤丸).町丁目レベルの推定なので数km程度の誤差はある可能性.背景は地理院地図.益城町,南阿蘇村が中心で,他は嘉島町,西原村など. pic.twitter.com/t2lcwbxvCr

熊本地震の死者・行方不明者を推定される原因別に集計し,最近の内陸型地震と比較.不明がまだ多いが,主な被害は「倒壊」(地震によって生じた構造物の倒壊や部材の落下,家具の転倒などに巻き込まれ,死亡した者).なおこの集計は,直接死のみを対象とし,「その他」には関連死は含まれない.  pic.twitter.com/x6u8M4Zjst

熊本地震の死者・行方不明者を年代別に見る.65歳以上の数が他事例より多い.比率(67%)では中越沖が高い(91%)が合計がかなり違うので比較は難しい.ちなみに2004-2013年の風水害犠牲者の65歳以上は56%でこれよりは高い. pic.twitter.com/zmO4HLP5gn

熊本地震の死者・行方不明者を遭難場所別に.まだ不明が多いが,屋内が多く,傾向としては中越,中越沖と似ているように思える. pic.twitter.com/g3u8ru90VC

本日現在で集計できるのはこのあたりまで.今後資料が集まった後で,結果が大きく変化する可能性はある.

2016年4月16日 (土)

平成28年熊本地震に伴う犠牲者について・4/16 17時現在メモ

昨日4月15日時点で,今回の地震に伴う犠牲者についていくつかツイートしたものをブログに整理した.「平成28年熊本地震に伴う犠牲者について・4/15現在メモ」 goo.gl/lxxBCq

昨日の時点では,2007年新潟県中越沖地震による犠牲者の原因別人数を確認していなかったので,本日あらためて整理した.2004年新潟県中越地震,2008年岩手宮城内陸地震の犠牲者と並べてグラフに示す. pic.twitter.com/7j1OpV9V87

昨日も示したが,東日本大震災で特に被害の大きかった岩手宮城福島の3県以外で生じた犠牲者71人についての筆者の集計 goo.gl/8h3QA では原因別では倒壊15,土砂3,津波26,その他20,不明7.

4月16日時点の平成28年熊本地震に伴う死者数(14日からの一連)は,17時頃のNHKによれば32人とのこと.現時点では関連死は含まれないので筆者の分類であれば倒壊,土砂,火災,その他の合計に相当する.とすれば,中越,中越沖,岩手宮城内陸よりは規模が大きくなった可能性.

東日本大震災時の土砂災害犠牲者数,どこかに国交省の集計があったと思うけど,すぐ見つからないので自分の集計 goo.gl/8h3QA だと28人くらい.

まだよくわからない部分が多いが,今回の地震に伴う犠牲者数は,東日本大震災における「津波以外の直接死者数」よりはだいぶ少ないが,中越,中越沖,岩手宮城内陸といった最近20年間の主な地震災害の中では最大規模となった可能性があるとは言えそう.

平成28年熊本地震に伴う犠牲者について・4/15現在メモ

「平成28年熊本地震」について,4月15日朝の段階で発表されている死者数は9人,「倒壊家屋の下敷きで窒息死多く」とのこと.死者9人は,2011年3月11日東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)以降で最大規模.

東日本大震災関連の個々の余震に伴う犠牲者数より多い.東日本大震災の犠牲者のほとんどは津波によるものと考えられ,地震の揺れによる犠牲者が結局どの程度だったのかは,結果的に津波による犠牲者に含まれた可能性もあることなどから明確にはわからないと言っていい.東日本大震災で特に被害の大きかった岩手宮城福島の3県以外で生じた犠牲者71人についての筆者の集計 http://goo.gl/8h3QA では,建物倒壊に関連する犠牲者は15人.ただし,住家が倒伏して生き埋めとなった犠牲になったケースは確認できなかった.

東日本大震災以前の地震災害で,比較的犠牲者が多かった事例は,2008/6/14岩手・宮城内陸地震(死者行方不明者25人)山間部の屋外での犠牲者がほとんどで,建物倒壊による犠牲者は確認できなかった(筆者調査 http://goo.gl/mxBi2 ).

岩手・宮城内陸地震の前で犠牲者が比較的多かった事例は2007/7/16新潟県中越沖地震(死者15人).この事例の犠牲者構成を私は精査していないので,詳細は今は知らない.

新潟県中越沖地震の前で犠牲者が比較的多かった事例は2004/10/23新潟県中越地震(死者68人).ただしこの68人の2/3程度は関連死で,地震の揺れに伴う直接死者は24人.そのうち建物倒壊に伴う犠牲者は10人(筆者調査 http://goo.gl/mxBi2 )

現時点ではまだなんとも言えない部分が多い.印象としては,建物倒壊に伴う犠牲者が比較的多く,建物倒壊に伴う犠牲者の規模は2007年新潟県中越沖地震や2004年新潟県中越地震に近い可能性がある.

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