災害

2017年10月25日 (水)

2017年台風21号による静岡市清水区沿岸部の高潮・高波被害の簡単な現地踏査

今回の台風21号では,太平洋側の広い範囲で高潮及び高波による被害が(大規模とは言えないが)各所で見られたようだ.静岡市内の沿岸部を本日10月24日に少し見てきた.

清水港周辺 goo.gl/F7Ucq4 確かに浸水痕跡が見て取れる.植え込みの所に浮遊したと思われる木などが.この付近は明瞭な防潮堤はなく,海から遮るものはない.ただし浸水痕跡が見られる範囲は限定的で,住家のある範囲に浸水等被害は確認できない.

Pa244827

Pa244828

由比漁港 goo.gl/xE3aSa 道路の舗装面が流失している.洪水などの被災地でよく見る光景で,浸水により舗装面の下まで水が入り,舗装面が浮き上がって流されたものか.この付近も,集落は高所または防潮堤の陸側にあり,住家には被害がない.

Pa244848

Pa244850

由比地区南側,静岡県内ではよく知られたビューポイント「さった峠」の麓.スマル亭というそば店 goo.gl/dmau2c が損壊.隣接する2棟の建物も海側に損壊が見られた.ちなみにスマル亭は静岡市周辺にいくつかある店で,格別うまくはないが私は好きである.

Pa244864

Pa244867

スマル亭隣接建物の損壊状況,コンクリート造なのか,壁面は損壊しておらず,柵?の一部が損壊.また,なにかの収容ボックスが基礎コンクリートごと倒れていた.

Pa244888

Pa244890

スマル亭の建っている位置の地盤高さは,海面からの比高約4.5m,地盤から約2.0mの防潮堤があり,さらに建物の海側にはもう1本高さ約2.0mの擁壁がある.地盤から約3.0m付近までの壁面が損壊し,建物反対側まで波が突き抜けた形跡が見られた.人的被害は確認されていない.

Photo

2017年9月25日 (月)

2017年9月17日の東九州での豪雨に関するメモ

2017年9月17日の東九州での豪雨について簡単に整理した.
 
17日24時の72時間降水量分布.「山の方で大雨」ではなくて,大分県南部海岸付近から宮崎県では海岸と九州山地の中間付近が多雨域.72時間降水量は少なくはないが,この地域としては時折ある程度.極値更新は佐賀関(大分),赤江(宮崎).話題となった佐伯,臼杵付近も極値更新はしていない.

1

 
15~17日の間の最大3時間降水量.大分県南部は海岸付近,宮崎県では北部山間部が強い印象.こちらは佐伯が更新.

2

 
AMeDAS佐伯の9/15~17の降水量推移.降雨は17日朝から夕方までのほぼ12時間.1時間50mm以上の非常に激しい雨が3時間,80mm以上の猛烈な雨も1時間記録.豪雨のピークが午前と午後の2回あったようだ.

6

 
AMeDAS佐伯の9/15~17の降水継続時間毎の最大値と,過去の記録との比較.5時間以下の降水量や,12時間降水量で1976年以降最大値を更新.記録的な大雨ではあったが,7月の朝倉のような,あらゆる角度から見て過去の記録を大幅に更新するタイプの大雨とまでは言えない.

7

 
津久見市内の大分県設置の「福山」観測所の9/15~17の降水量推移.24,72時間降水量は佐伯より大きい.過去の記録がないので直接比較はできないが,3,24時間降水量は佐伯の1976年以降最大値よりは大きい.1時間50mm以上が4時間だが,80mm以上に達してはいない.

8

 
総じて見て,降水量記録は,大分県南部としてはやや大きな記録となったと思われるが,極端に大きな記録とまでは言えなさそう.主に短時間の降水が激しかったケースとみられる.また,特に大きな記録が見られた範囲は限定的.宮崎県側も値は大きく見えるが,この地域としては特筆するほどではない.

3

 
こちらは気象庁HPから,佐伯の9月及び9/17の潮位変化.17日は大潮に向かうところで潮位はやや高め,台風接近の午後は満潮.ただし潮位偏差はピークの16時頃で0.5m程度.高潮による激しい被害事例というよりは,主に豪雨による洪水というところではなかろうか.

_201709

_lvl_1_20170917

2017年7月24日 (月)

2017/7/22朝倉市付近現地踏査雑感

7/22の現地踏査から.先週大量の人や車両が溢れていた朝倉市杷木星丸付近は少し静かになったような印象.https://goo.gl/RQjcjq から上流側を見る.この視界内で少なくとも住家5~6箇所が流失.5箇所が流失した市営住宅は右手建物の後方.

Dfvvsaxuiaarlfy

朝倉市杷木松末.位置図→ https://goo.gl/6xK6ck 赤谷川と乙石川の合流部付近の被害.住家3箇所が基礎地盤から完全に流失し,人的被害も生じている.後方の台地部分も侵食しているのでは.河道沿いの谷底平野部分とは言え,激しい被害.

Dfvvzqcuwaapexk

朝倉市杷木白木.位置図→ https://goo.gl/35GRfD 赤谷川の1本西側の小流域,白木谷川の最上流域の集落.河道沿いの住家6箇所が流失し,人的被害も生じている.土石流から洪水流に変わるあたりか.

Dfvv8bouqaadgsq

朝倉市杷木古賀.位置図→ https://goo.gl/H2FdS7 白木谷川の1本西側の寒水川流域上流側.流域内で住家3箇所と神社(この場所ではない)が流失.谷底平野で被害.「神社は安全」みたいな「雑で心地よい話」が私は嫌.神社にもいろいろ歴史的経緯あるでしょう.地形分類図で見るとこの神社は谷底平野(山麓の扇状地)だったので,あまり安全とは.

Dfvwbyuv0aajzht

2017年九州北部豪雨の災害で、最も集中的な家屋被害が生じたのは,朝倉市杷木松末の一部で,赤谷川支流の乙石川流域,石詰,中村集落ではなかろうか.川沿いにあった集落のほとんどが流失したように見える.

Dfvvw2vv0aauu8b

写真は7/22撮影の同川最下流部,位置図→ https://goo.gl/EoYmZU なお,乙石川最上流部の乙石集落は,国土地理院の空中写真では雲がかかって見えないので,家屋被害状況はよくわからない.

Dfvvh1puiaeroxz_2

2017年7月九州北部豪雨災害では「流失」家屋が多い印象

2017年7月九州北部豪雨による災害は,人的被害もまとまった規模となりつつあるだけではなくて,家屋被害も,総数では例えば何万棟単位などにはならないように思うけど,流失・倒壊といった程度の激しい「全壊」家屋が多いような印象を,空中写真判読や現地踏査から感じる.
 
近年の災害統計では一般的に「流失」という値は出てこない(昔はあった).「全壊」といっても完全に倒壊しているようなケースはごくわずかで,概観上損壊していないように見えても継続使用困難なものなども「全壊」となる.
 
当初「床上浸水」と判断されたものが後日「全壊」「半壊」に判定が変わるケースは非常によくある.家屋被害数は発災1ヶ月後くらいに床上浸水が大幅減少し,全壊,半壊が大幅に増加する傾向が一般的.このあたりは3月に出した論文に詳述した.
 
牛山素行:日本の風水害人的被害の経年変化に関する基礎的研究,土木学会論文集B1(水工学),Vol.73,No.4,pp.I_1369-I_1374,2017.
 
したがって,見た目で明らかに大きく壊れているという意味での「全壊」家屋数は,災害発生から1ヶ月以内くらいの数字がそれに近いと考えて言い,というか実際に見ていてもそういう印象がある.これは別に批判しているのではなくて,むしろ被災した側に立った対応で,悪いことではない.
 
今回の被害について,たとえば災害約10日後の7月15日時点の消防庁資料では福岡県の「全壊」は87棟.手元の資料では今回と類似した狭い範囲の豪雨だった2014年広島では災害9日後の「全壊」が24棟.こうしてみると,今回は「明らかな全壊」が多いような気がする.

2017/7/15-16朝倉市・東峰村付近現地踏査雑感

福岡県東峰村宝珠山.位置図→  https://goo.gl/UiKihx 2017年7月15日踏査.日田彦山線筑前岩屋駅のすぐ北(というより場内)の土砂災害現場.土石流と言っていいだろう.谷の上流方で少なくとも2世帯分が基礎もろとも流失,写真手前左側の合流部対岸側で1世帯が基礎のみ残して流失.こうした典型的な土石流災害現場も少なくない.

Dexnuahu0aejmhd

朝倉市杷木星丸地区.位置図→ https://goo.gl/NsWvjV 2017年7月16日踏査.山地河川洪水により,この写真の範囲周辺だけで住家が少なくとも14世帯分流失.洪水によるこれだけの住家流失は珍しく,例えば平野部での堤防決壊に伴う洪水ではあるが,2015年常総市のケースでは全部で9世帯.山地河川洪水で集中的な被害が生じた2016年台風10号による岩手県岩泉町安家地区では11世帯.両事例とも,他には集中的な流失地区は見られなかったが,2017年7月九州北部豪雨では,こうした集中的な流失が1地区ではないことが特徴.

De47jvbv0aaqxzs

2017年7月13日 (木)

朝倉市・日田市付近の流失家屋等の写真判読(洪水・土砂を再判読)

7月11日現在で国土地理院が公開している空中写真 https://goo.gl/r9qEg1 から,今回の九州北部での豪雨による
 
朝倉市 赤谷川流域,北川流域,妙見川流域,黒川流域,疣目川流域
日田市 大肥川流域,小野川流域
東峰村 大肥川流域
 
の家屋の流失,倒壊状況を判読した.
 
朝倉市・日田市付近の流失家屋等の写真判読
 
その後,家屋等の流失に至った原因外力(洪水,土砂)について,あらためて判読を行った.上記ページと一部記述が重複するが,以下に結果を掲示する.
 
ここで流失,倒壊とは,
 
牛山素行・横幕早季:2014年8月広島豪雨による犠牲者の特徴,自然災害科学,Vol.34,特別号,pp.47-59,2015
 
で定義した「犠牲者が生じ得るような激しい外力が作用した」家屋である.具体的には以下のいずれかを満たすものである.
  • a)基礎より上の部分,または基礎も含めて完全に流失(建っていた場所からほかの場所に移動)し,どこにも建物の形状が確認できない
  • b)基礎より上の部分,または基礎も含めて完全に流失したが,流失先に建物の原型を一部でも残している
  • c)建っていた場所から移動はしていないが,建物の5割以上が原形をとどめず倒伏している
  • d)建っていた場所に建物の原形はとどめているが,建物内は土砂でほぼ満たされている
利用資料は,国土地理院が7月11日現在で公表している航空写真とゼンリン住宅地図である.災害前後の航空写真を比較し,上記a(以下では「流失」という)またはb(「変形」という)と読み取れる家屋を判読した.なお現時点では立体視は行っていない.判読対象家屋は,住宅地図で人名,事業所名,地番のいずれかが書かれている建物とした.同一世帯内の複数の建物が被害を受けていた場合は1と数えた.つまり「棟数」ではなく,箇所数あるいは世帯数である.非住家は対象としていない.
 
判読範囲は下記である.

11_2

12_2

これらの判読範囲で確認されたのは「流失」44箇所,「変形」11箇所の計55箇所だった.写真からの判断であり,見落としや,課題評価が大いに存在する可能性がある.また,撮影範囲以外のことは当然含まれない.なお,妙見川流域,疣目川流域,大肥川流域では1箇所も判読されなかった.
 
2014年8月広島豪雨災害時に,人的被害の発生した地区で同様な調査を行った際,「流失」「変形」等と判定されたのは47箇所であり,今回判読した範囲内だけでこれを超過している.流失家屋がかなり多いように思われる.
 
原因外力は,現地調査をしても,人によって判断が分かれる所であり,あまり厳密な議論はできないが,写真の被害状況や地形図,標高から,以下の方針で判読・分類を行った.
  • 山地河川洪水起因の可能性が高い(以下「洪水」):家屋を破壊したと思われる流れの勾配が,流失・変形家屋の直上流側で約3度未満
  • 洪水と土砂の中間的なもの(「洪水or土砂」):同,勾配が約3度~約10度
  • 土石流・崖崩れ起因の可能性が高い(「土砂」):同,勾配が約10度以上
閾値を3度及び10度としたのは,一般的に土石流は勾配10度程度で停止(堆積)しはじめ,3度以下には到達しないことが知られているためである.崖崩れはさらに急勾配の箇所で発生することが一般的である.
 
なお,筆者は「洪水」と「土砂」を今後厳密に分類することは目的としていない.今後,筆者が継続的に実施している風水害時の人的被害発生状況を調査する際に,各人的被害の原因外力を分類し,ソフト対策上の知見を得るために概略的な分類として行っているものである.
 
判読結果が下図である.箇所数は,「洪水」26箇所,「洪水or土砂」17箇所,「土砂」12箇所だった.なお7月11日の判読では,上記「土石流・崖崩れ起因の可能性が高い」もののみを「土砂」と判読したため,今回の判読では「洪水」の箇所数が減少している.あくまでも空中写真によるざっくりとした判読ではあるが,主に山地河川洪水による流失・変形と思われた.無論,洪水と言っても水だけではなく,上流側で発生した崖崩れ,土石流により生産された土砂と共に流下したものである.昨年の岩手県岩泉町,2011年台風12号の那智川流域の災害などと類似している.

13

「洪水」「洪水or土砂」と判読された箇所で,洪水浸水想定区域となっていた箇所は存在しなかったが,その多くは地形分類図から「低地(谷底平野)」と判読されたことは昨日挙げている.
 
朝倉市・日田市の流失家屋等の位置と地形の関係を判読
 
また,本日判読した「土砂」12箇所はいずれも,土石流危険渓流,急傾斜地崩壊危険箇所,土砂災害警戒区域(土石流)のいずれかの範囲内もしくは範囲近傍(約30m以内)に該当した.基本的に,地形的に危険性の考えられる箇所で被害が生じていることは,これまで繰り返し指摘しているとおりである.
上記の図の作成は,埼玉大学教育学部谷謙二研究室「Google Maps APIv3を使ったジオコーディングと地図化」を用いている.

2017年7月12日 (水)

朝倉市・日田市の流失家屋等の位置と地形の関係を判読

昨日,国土地理院の空中写真 https://goo.gl/r9qEg1 から,今回の九州北部での豪雨による朝倉市赤谷川流域の家屋の流失,倒壊状況を判読した.
 
朝倉市・日田市付近の流失家屋等の写真判読
 
ここで判読した「流失」の住家等44箇所,「変形」11箇所の計55箇所について,その位置がどのような地形があるかを検討した.用いたのは,5万分の1都道府県土地分類基本調査の地形分類図「吉井」(福岡県版),「吉井」(大分県版)である.なお,今回の被害が大きかった地域では,国土地理院刊行の土地条件図,治水地形分類図,都市圏活断層図は未整備で,地形分類図的なものとしては土地分類基本調査によるもののみである.
 
地形分類図が5万分の1と,空間分解能がやや低いため,国土地理院(地理院地図)の地形図及び陰影起伏図を合わせて参照した.地形分類図,地形図,陰影起伏図と,「流失」「変形」家屋の位置を,目視により比較し,牛山の判断で地形を判読した.なお,筆者は地形学の専門家ではないので,判読は厳密なものではない.「流失」「変形」家屋位置の図示例を下記に示す.

2

判読の結果,洪水に起因すると思われる42箇所は,すべて低地(いずれも谷底平野)に所在し,山地,台地と判読された箇所は見られなかった.土砂に起因すると思われる13箇所は,山地9箇所,台地2箇所,低地2箇所だった.
 
航空写真と地形分類図を用いた,図上判読だけであり,被害程度,場所,原因外力,地形ともに曖昧な部分が多いと思われる.しかし,大局的には今回の豪雨により,家屋が流失するような大きな被害箇所の多くは,山地河川洪水に起因するものと思われ,それらの箇所の地形はほぼ低地(いずれも谷底平野)だった可能性が高い.
これは,「流失」「変形」家屋はほぼすべて,「予想もつかないような場所」で発生したのではなく,「地形的に起こりうる場所」で発生したことを意味する.
 
山地河川では,洪水の浸水想定区域の設定が進みにくい面があり,ハザードマップ上「安全だ」と思い込まれやすい危険性がある.こうした課題への対応策の一つとして,地形分類図の活用は可能性があるかと思われる.しかし,地形分類図は作成地域や作成者により内容が異なりやすいなどの特性があり,広く利用するには課題が多いことは強く注記しておかねばならない.

2017年7月11日 (火)

朝倉市・日田市付近の流失家屋等の写真判読

本日午前に,国土地理院の空中写真 https://goo.gl/r9qEg1 から,今回の九州北部での豪雨による朝倉市赤谷川流域の家屋の流失,倒壊状況を判読した.
 
朝倉市・赤谷川流域の流失家屋等の写真判読
 
その後,7月11日現在で国土地理院が公開している全地域に当たる,
 
朝倉市 赤谷川流域,北川流域,妙見川流域,黒川流域,疣目川流域
日田市 大肥川流域,小野川流域
東峰村 大肥川流域
 
について同様な方法で判読した.以下,今朝のブログ記事と一部重複するが,判読方法の説明から記述する.
 
ここで流失,倒壊とは,
 
牛山素行・横幕早季:2014年8月広島豪雨による犠牲者の特徴,自然災害科学,Vol.34,特別号,pp.47-59,2015
 
で定義した「犠牲者が生じ得るような激しい外力が作用した」家屋である.
 
具体的には以下のいずれかを満たすものである.
  • a)基礎より上の部分,または基礎も含めて完全に流失(建っていた場所からほかの場所に移動)し,どこにも建物の形状が確認できない
  • b)基礎より上の部分,または基礎も含めて完全に流失したが,流失先に建物の原型を一部でも残している
  • c)建っていた場所から移動はしていないが,建物の5割以上が原形をとどめず倒伏している
  • d)建っていた場所に建物の原形はとどめているが,建物内は土砂でほぼ満たされている
利用資料は,国土地理院が7月11日現在で公表している航空写真とゼンリン住宅地図である.
 
災害前後の航空写真を比較し,上記a(以下では「流失」という)またはb(「変形」という)と読み取れる家屋を判読した.なお現時点では立体視は行っていない.判読対象家屋は,住宅地図で人名,事業所名,地番のいずれかが書かれている建物とした.同一世帯内の複数の建物が被害を受けていた場合は1と数えた.つまり「棟数」ではなく,箇所数あるいは世帯数である.非住家は対象としていない.
 
判読範囲は下記である.

11_2 

12_2

これらの判読範囲で確認されたのは「流失」44箇所,「変形」11箇所の計55箇所だった.写真からの判断であり,見落としや,課題評価が大いに存在する可能性がある.また,撮影範囲以外のことは当然含まれない.位置図は下記の通りである.なお,妙見川流域,疣目川流域,大肥川流域では1箇所も判読されなかった.

13

原因外力は,現地調査をしても,人によって判断が分かれる所であり,あまり厳密な議論はできないが,写真の被害状況や地形からごくざっくりと判断した範囲では,山地河川洪水によるものが42箇所,土石流・崖崩れによるものが13箇所で,ほとんどが山地河川洪水による流失・変形と思われた.
 
2014年8月広島豪雨災害時に,人的被害の発生した地区で同様な調査を行った際,「流失」「変形」等と判定されたのは47箇所であり,本日判読した範囲内だけでこれを超過している.流失家屋がかなり多いように思われる.
 
やはり今回の災害は,土砂災害と言うよりは山地河川洪水による災害と言っていいという気持ちがさらに強まった.昨年の岩手県岩泉町,2011年台風12号の那智川流域の災害などと類似している.
 
昨年の台風10号の岩泉は明らかに山地河川洪水災害.グループホームのことばかりが騒がれていたが,「山地河川洪水で家屋が多数流失,人的被害もほとんどが洪水犠牲者」ともっと強く騒いでおくべきだったと悔やまれる.

朝倉市・赤谷川流域の流失家屋等の写真判読

国土地理院の空中写真 https://goo.gl/r9qEg1 から,今回の九州北部での豪雨による家屋の流失,倒壊状況を判読した.ここで流失,倒壊とは,
 
牛山素行・横幕早季:2014年8月広島豪雨による犠牲者の特徴,自然災害科学,Vol.34,特別号,pp.47-59,2015
 
で定義した「犠牲者が生じ得るような激しい外力が作用した」家屋である.
 
具体的には以下のいずれかを満たすものである.
  • a)基礎より上の部分,または基礎も含めて完全に流失(建っていた場所からほかの場所に移動)し,どこにも建物の形状が確認できない。
  • b)基礎より上の部分,または基礎も含めて完全に流失したが,流失先に建物の原型を一部でも残している。
  • c)建っていた場所から移動はしていないが,建物の5割以上が原形をとどめず倒伏している。
  • d)建っていた場所に建物の原形はとどめているが,建物内は土砂でほぼ満たされている。
利用資料は,国土地理院が7月10日現在で公表している航空写真とゼンリン住宅地図である.特に被害の大きかった,朝倉市杷木の赤谷川流域で公開されている航空写真の範囲を判読した.

01_2

災害前後の航空写真を比較し,上記a(以下では「流失」という)またはb(「変形」という)と読み取れる家屋を判読した.なお現時点では立体視は行っていない.判読対象家屋は,住宅地図で人名,事業所名,地番のいずれかが書かれている建物とした.同一世帯内の複数の建物が被害を受けていた場合は1と数えた.つまり「棟数」ではなく,箇所数あるいは世帯数である.非住家は対象としていない.
 
赤谷川流域の判読範囲で確認されたのは「流失」32箇所,「変形」5箇所の計37箇所だった.写真からの判断であり,見落としや,課題評価が大いに存在する可能性がある.また,撮影範囲以外のことは当然含まれない.位置図は下記の通りである.

02

原因外力は,現地調査をしても,人によって判断が分かれる所であり,あまり厳密な議論はできないが,写真の被害状況や地形からごくざっくりと判断した範囲では,山地河川洪水によるものが30箇所,土石流・崖崩れによるものが7箇所で,ほとんどが山地河川洪水による流失・変形と思われた.
 
2014年8月広島豪雨災害時に,人的被害の発生した地区で同様な調査を行った際,「流失」「変形」等と判定されたのは47箇所だったことを考えると,本日判読した限定的な範囲内だけで40箇所弱というのは,かなり被害規模として大きいように思われる.
 
やはり今回の災害は,土砂災害と言うよりは山地河川洪水による災害と言っていいという気持ちがさらに強まった.昨年の岩手県岩泉町,2011年台風12号の那智川流域の災害などと類似している.
 
昨年の台風10号の岩泉は明らかに山地河川洪水災害.グループホームのことばかりが騒がれていたが,「山地河川洪水で家屋が多数流失,人的被害もほとんどが洪水犠牲者」ともっと強く騒いでおくべきだったと悔やまれる.

2017年7月 9日 (日)

2017/7/8福岡県朝倉市付近現地踏査雑感

7月8日午後,福岡県朝倉市内の豪雨災害被災地を現地踏査.移動区間は朝倉市比良松付近から同市杷木林田付近までの国道386号線沿い及び周辺の山麓部.以下,現地を見ての雑感.短時間での印象なので不正確な点もありうる. 

なお,主な写真と撮影位置図などは2017年7月8日福岡県朝倉市付近現地踏査写真に整理してある.

テレビ報道でもよく流れていた比良松中学校の建物の被害.治水地形分類図で見ると校舎敷地は台地上.河道の側岸浸食により建物の基礎地盤部分が流失した模様. pic.twitter.com/3RRU4J9aLo

比良松中学校付近では,橋の取り付け道路部が流失した被害も見られた.橋も損壊しているが,道路部分は完全に流失.橋が残っているために,誤って車が転落するなどの被害に繋がりやすい形態.2016年北海道の豪雨では3箇所で3人が同形態で死亡している. pic.twitter.com/qSN3RdJxHS

筑後川右岸側では,各支流から大量の洪水流が流れ込み,低地部全体を流下したような印象.水だけでなく,多量の土砂が運ばれて堆積している.低地部に堆積している土砂の粒径は細かく,レキと言えるようなものはほとんど見られない(当たり前だけど).

朝倉市山田地区.洪水流により家屋が流失し,人的被害が生じた付近.氾濫平野部分全体を洪水流が流れている.上流でため池が決壊したが,その下流にもう一つため池がありそれは決壊していない. pic.twitter.com/uP5XT8HeUp

山田地区の家屋流失とため池決壊の関係はよくわからないが,豪雨によるため池決壊自体は珍しいことではない.写真は2013年7月の豪雨による山口県萩市須佐でのため池決壊事例. pic.twitter.com/ACbGZamD0a

ただし,豪雨時のため池決壊近傍での家屋流失による人的被害事例は少なく,2004年以降では2004年10月台風23号豪雨時の,兵庫県洲本市上内膳での1箇所2人があるくらいか. pic.twitter.com/38rO6xPO90

朝倉市山田地区のため池決壊現場.並んで大小2つのため池があり,いずれも決壊している模様.goo.gl/nizkSN なお,この地点の下流側に別のため池があり,これは決壊していない.

朝倉市杷木林田付近では,河道の位置が大きく変わり,水田だった部分が河道に.これ自体は珍しくはないが,河道だった部分に地盤高(河床ではない)+1~2mの土砂が堆積し完全に埋め尽くされていたのがあまり見ない光景だった. goo.gl/UEMqzP pic.twitter.com/gFbmk52axw

杷木林田の河道位置が変わりはじめた地点 goo.gl/smdusM  これまでの河道や道路の部分にうずたかく土砂が堆積し,今まさに自然堤防を形成する河川の活動が生じたのだ,と感じさせられた.もっともこれは,防災上はどうでもよい話とは思うが.私は『地学的知識』をみんなが持つことが,防災(被害軽減)に直結する一丁目1番地だとは思っていないので.  pic.twitter.com/DRgBI3xIES

河道位置が変わった朝倉市杷木林田付近で家屋流失したらしい箇所 goo.gl/smEVvP 家屋周辺に土砂は1-2mほど堆積しているが堆積しただけでは家屋倒壊となりにくい(継続使用は困難かもしれないが).家屋流失は新たな河道となった箇所に限られそう. pic.twitter.com/Mt7D8f6Fny

見た範囲では氾濫平野部が浸水し,台地上は洪水の影響をほとんど受けていない.ただし治水地形分類図で扇状地と描かれている部分も浸水しているケースが見られた印象.基本的には地形的に起こりうるところで起こりうる現象が起こっている.

地形が被害に影響している例.杷木インター付近の国道386号 goo.gl/TwUwKq 道路は手前の台地側から氾濫平野に向かって下っており,氾濫平野部分で浸水や土砂の堆積が生じているようにみえる. pic.twitter.com/qmAX8oVS1c

洪水ハザードマップ整備が進みにくい山地の中小河川での災害危険性を知る上では,地形分類図(というか中学理科社会の地形の知識?)が有効であることをあらためて感じた.地形分類図は見方に難しいところがあり,災害情報として万人に「使ってください」とは言いにくいけど.

7/7のTBS Session22でも現地から報じられていたとおり,移動した範囲だけでもスーパー,コンビニ等で営業再開しているところは複数見られた.セブンイレブンに入ったが,商品も特に不足しているような印象は受けなかった.

ちょっとわかりにくい写真だが,杷木インター付近の北側斜面では,斜面の至る所で崩壊が生じているような場所もあった.ただし,こういった状況が朝倉市一帯に見られているわけではない.より山間部の状況は不明.崩壊面積は広いが浅い崩壊がほとんどのような印象.このあたりは今後出てくる航空写真で明瞭になるでしょう. pic.twitter.com/BgB6FsX6jc

現地を見てあらためて,山地河川の洪水は怖いなと.去年の岩泉と共通する印象.もっとしつこく「山地河川の洪水は怖いよ,豪雨時に山地河川の脇からは少しでも離れようよ」ともっとしつこく言っておけばよかった,と悔やんだ.写真は2016年台風10号災害時の岩手県岩泉町安家地区. pic.twitter.com/BI6zuHiYyr

ハザードマッブで浸水想定区域や土砂災害警戒区域と示されていない場合でも「川と同じくらいの高さにある場所」は,浸水などの被害を受け得る.「川と同じくらいの高さ」とは普段の水面の高さではなくて,水面に向かってへこみはじめたところの高さのこと.絵が下手ですみません. pic.twitter.com/wMBVgCfKjR

より以前の記事一覧

無料ブログはココログ

ブログ内検索

Twitter