朝倉市 赤谷川流域,北川流域,妙見川流域,黒川流域,疣目川流域
日田市 大肥川流域,小野川流域
東峰村 大肥川流域
の家屋の流失,倒壊状況を判読した.
朝倉市・日田市付近の流失家屋等の写真判読
その後,家屋等の流失に至った原因外力(洪水,土砂)について,あらためて判読を行った.上記ページと一部記述が重複するが,以下に結果を掲示する.
ここで流失,倒壊とは,
牛山素行・横幕早季:2014年8月広島豪雨による犠牲者の特徴,自然災害科学,Vol.34,特別号,pp.47-59,2015
で定義した「犠牲者が生じ得るような激しい外力が作用した」家屋である.具体的には以下のいずれかを満たすものである.
- a)基礎より上の部分,または基礎も含めて完全に流失(建っていた場所からほかの場所に移動)し,どこにも建物の形状が確認できない
- b)基礎より上の部分,または基礎も含めて完全に流失したが,流失先に建物の原型を一部でも残している
- c)建っていた場所から移動はしていないが,建物の5割以上が原形をとどめず倒伏している
- d)建っていた場所に建物の原形はとどめているが,建物内は土砂でほぼ満たされている
利用資料は,国土地理院が7月11日現在で公表している航空写真とゼンリン住宅地図である.災害前後の航空写真を比較し,上記a(以下では「流失」という)またはb(「変形」という)と読み取れる家屋を判読した.なお現時点では立体視は行っていない.判読対象家屋は,住宅地図で人名,事業所名,地番のいずれかが書かれている建物とした.同一世帯内の複数の建物が被害を受けていた場合は1と数えた.つまり「棟数」ではなく,箇所数あるいは世帯数である.非住家は対象としていない.
判読範囲は下記である.
これらの判読範囲で確認されたのは「流失」44箇所,「変形」11箇所の計55箇所だった.写真からの判断であり,見落としや,課題評価が大いに存在する可能性がある.また,撮影範囲以外のことは当然含まれない.なお,妙見川流域,疣目川流域,大肥川流域では1箇所も判読されなかった.
2014年8月広島豪雨災害時に,人的被害の発生した地区で同様な調査を行った際,「流失」「変形」等と判定されたのは47箇所であり,今回判読した範囲内だけでこれを超過している.流失家屋がかなり多いように思われる.
原因外力は,現地調査をしても,人によって判断が分かれる所であり,あまり厳密な議論はできないが,写真の被害状況や地形図,標高から,以下の方針で判読・分類を行った.
- 山地河川洪水起因の可能性が高い(以下「洪水」):家屋を破壊したと思われる流れの勾配が,流失・変形家屋の直上流側で約3度未満
- 洪水と土砂の中間的なもの(「洪水or土砂」):同,勾配が約3度~約10度
- 土石流・崖崩れ起因の可能性が高い(「土砂」):同,勾配が約10度以上
閾値を3度及び10度としたのは,一般的に土石流は勾配10度程度で停止(堆積)しはじめ,3度以下には到達しないことが知られているためである.崖崩れはさらに急勾配の箇所で発生することが一般的である.
なお,筆者は「洪水」と「土砂」を今後厳密に分類することは目的としていない.今後,筆者が継続的に実施している風水害時の人的被害発生状況を調査する際に,各人的被害の原因外力を分類し,ソフト対策上の知見を得るために概略的な分類として行っているものである.
判読結果が下図である.箇所数は,「洪水」26箇所,「洪水or土砂」17箇所,「土砂」12箇所だった.なお7月11日の判読では,上記「土石流・崖崩れ起因の可能性が高い」もののみを「土砂」と判読したため,今回の判読では「洪水」の箇所数が減少している.あくまでも空中写真によるざっくりとした判読ではあるが,主に山地河川洪水による流失・変形と思われた.無論,洪水と言っても水だけではなく,上流側で発生した崖崩れ,土石流により生産された土砂と共に流下したものである.昨年の岩手県岩泉町,2011年台風12号の那智川流域の災害などと類似している.
「洪水」「洪水or土砂」と判読された箇所で,洪水浸水想定区域となっていた箇所は存在しなかったが,その多くは地形分類図から「低地(谷底平野)」と判読されたことは昨日挙げている.
朝倉市・日田市の流失家屋等の位置と地形の関係を判読
また,本日判読した「土砂」12箇所はいずれも,土石流危険渓流,急傾斜地崩壊危険箇所,土砂災害警戒区域(土石流)のいずれかの範囲内もしくは範囲近傍(約30m以内)に該当した.基本的に,地形的に危険性の考えられる箇所で被害が生じていることは,これまで繰り返し指摘しているとおりである.
上記の図の作成は,埼玉大学教育学部谷謙二研究室「Google Maps APIv3を使ったジオコーディングと地図化」を用いている.