御嶽山噴火1年で信濃毎日新聞が遺族の方などにアンケート
御嶽山の噴火から1年が経過したなかで,信濃毎日新聞が遺族の方と,噴火当時山頂にいて助かった方を対象にアンケート調査をしたことが9月27日付け紙面で報じられている.なかなか興味深い結果が出ていると思う. http://goo.gl/TYiMaI
御嶽山の噴火から1年が経過したなかで,信濃毎日新聞が遺族の方と,噴火当時山頂にいて助かった方を対象にアンケート調査をしたことが9月27日付け紙面で報じられている.なかなか興味深い結果が出ていると思う. http://goo.gl/TYiMaI
10月13日放送分のNHKニュースでの当方コメント関係記事と,放送で伝えきれなかった私のコメントを挙げておきます.
------------------------------
■10月13日放送分
特別警報 周知は高齢者ほど遅い傾向
先月の台風18号による大雨で、気象庁は初めて「特別警報」を発表しましたが、発表の直後に知った人の割合は、年齢が高いほど少なかったことがNHKの調査で分かりました。
NHKは、先月16日、台風18号の大雨で「特別警報」が発表された京都府と滋賀県、福井県の市町村の男女を対象に今月4日から3日間、コンピューターで無作為に発生させた番号に電話をかけるRDDという方法で世論調査を行い、60%余りに当たる1809人から回答を得ました。
それによりますと、当時、「特別警報が出たことを知っていた」と答えた人は69%で、「知らなかった」の25%を大きく上回りました。
「知っていた」という人のうち、午前5時5分の「特別警報」の発表からおよそ1時間後に当たる「午前6時ごろまで」に知ったと答えた人の割合は、▽20代から30代が49%、▽40代から50代が48%とほぼ半数に上りましたが、▽60歳以上では34%にとどまり、年代が高くなるにつれて少なくなりました。
一方、「特別警報」を何で知ったかを尋ねたところ、▽20代から30代では「防災関連のメール」が45%で最も多かったのに対し、▽60歳以上では「テレビ」が62%で最も多く、「メール」は15%でした。
これについて災害時の情報伝達に詳しい、静岡大学の牛山素行教授は「若い世代はメールで『特別警報』を認識した割合が高かったが、高齢者はこうしたメディアを活用していなかったために認識が遅れた傾向があるのではないか。1つの手段に依存するのではなく、高齢者にも迅速に伝わる複数の伝達手段を用意する必要がある」と話しています。
------------------------------
このNHKの調査では、特別警報という情報自体の認知率は高齢者の方が高いのに、発表当日に発表されたことを覚知した率は高齢者の方が低く、覚知時刻も遅いという傾向が確認されました.一方、特別警報を覚知した情報源は高齢者は圧倒的にテレビだが、若年層はテレビとメールが半々くらい、という傾向でした.高齢者の特別警報覚知率が低く遅いことと、情報源の相違は、直接関係すると断言はできないが、一つの説明にはなりうると考えました.
IT系メディアをむやみに礼賛するつもりはありませんが、警報的情報の伝達手段として、メール等(特にエリアメール)の有効性がじわじわと高まっている可能性はあるように思います.繰り返すけど、礼賛はしません.いろいろな情報伝達手段の一つとして有効だ、という話です.
10月12日放送分のNHKニュースでの当方コメント関係記事と,放送で伝えきれなかった私のコメントを挙げておきます.
------------------------------
■10月12日放送分
「特別警報で何もせず」が7割
先月の台風18号による大雨で初めて「特別警報」が発表された地域で、人々がどう行動していたのかNHKが調査した結果、「特に何もしなかった」という人が7割に上ることが分かりました。専門家は「地域の危険性を知り、いざという時にどう行動すべきか、確認しておくことが重要だ」と指摘しています。
NHKは先月16日、台風18号の大雨で「特別警報」が発表された京都府と滋賀県、福井県の市町村の男女を対象に今月4日から3日間、コンピューターで無作為に発生させた番号に電話をかけるRDDという方法で世論調査を行い、60%余りに当たる1809人から回答を得ました。
それによりますと、当時「特別警報が出たことを知っていた」と答えた人は69%で「知らなかった」の25%を大きく上回りました。
「特別警報」を知ってどう行動したか聞いたところ▽「すでに避難していた」と答えた人と▽「避難した」という人がそれぞれ1%▽「自宅で、より安全と思う場所に移動した」と答えた人が18%だったのに対して▽「特に何もしなかった」という人は70%に上りました。
「何もしなかった」という人にその理由を尋ねたところ▽「自分の地域は安全だと思ったから」が70%で最も多く▽「外に出るのは危険だと思ったから」が16%▽「周りの人が避難しなかったから」が8%▽「どうしたらよいか分からなかったから」が4%でした。
災害時の情報伝達に詳しい静岡大学の牛山素行教授は「特別警報が出ている状況では身の安全の確保が必要で全く何もしないのは適切ではない。どういう災害が起こりうるか十分理解できていない場合もあるので、日頃から地域の危険性を認識して、いざという時どうしたらいいか確認しておくことが重要だ」と話しています。
------------------------------
今回の特別警報に関するNHKの調査は、企画段階にはかかわっていないので調べ方にちょっと?,なところもあります.全体にびっくりするような結果はなく、なるほどこんなものか、という感じ.意義がないということではなく、常識的な結果だったということです.
この調査では,自宅内での退避も含めるという、広めに「対応行動」をとって質問していますが,それでも自分の居住地に避難勧告等が出たと認知した人の6割は何も行動していない.まあこんなものかとも思いますが,原則論としては「適切とは言えない」というところでしょう.ただ、回答者の居住地に関する情報がほとんどないので、「なにもしなかった」が本当に「適切でない」と言えるかどうかは難しいところです.
「特別警報が出たのに何も対応しないのは適切ではない」は原則論であり,コメントとしては重要でない部分です.重要なのは「どういう災害が起こりうるか十分理解できていない場合もあるので、日頃から地域の危険性を認識して」の方です.つまり、「自分のところは安全なので何も対応しなかった」が一概にいけないということではありません.居住地の災害特性に無頓着なまま根拠もなく「安全」と思い込んでいるのであればまずい、ということです.
7月28日の山口・島根豪雨時に発表された「特別警報相当」である「記録的な大雨に関する気象情報」が現地市町村にどう受け止められたかについては,7月30日付読売新聞に関係記事が見られた.まず関係箇所を引用します.
------------------------------
[7月30日付読売新聞]
従来の警報、注意報では、市町村による住民への周知は努力義務だったが、特別警報では義務になる。今回、多くの被災自治体は特別警報が発表される前に避難勧告を出しており、特別警報を住民に周知していなかった。
山口市は、28日午前10時に阿東地区2588世帯6099人に避難勧告を発令し、防災無線などで周知したが、約1時間20分後に気象庁が特別警報を発表した後も特別な注意喚起はしなかった。市防災危機管理課の担当者は「避難勧告を出した後で、新たな呼びかけをする認識はなかった」と話す。
同様に改めて注意喚起しなかった島根県益田市は「特別警報は報道で認識していたが、正式な情報提供ではなかったので、特別警報を住民に周知するという判断を勝手にするわけにもいかなかった」(危機管理対策課)と語り、突然の運用に戸惑いも見せた。
一方、山口県萩市は避難勧告を出すとともに防災メールを通じて「非常に危険な状態。浸水や土砂災害に備え、命を守る行動をお願いします」という強い文言で市民に注意を呼びかけた。
その後、特別警報が出されたが、市防災安全課は「甚大な被害が出る前に危険性を周知しなければ意味がなく、市の判断で強い文言で注意を促した。先手先手で対応した」とした。
------------------------------
以下,あくまでも,この報道が自治体の回答をそのまま正確に伝えているという前提での論評です.
山口市は,避難勧告を出した後に「記録的な大雨に関する気象情報」をうけとり,すでに自治体として極めて強い情報である避難勧告が出ている状況下で,あらためて「特別警報相当」で注意喚起をする必要性を認めなかった,という判断と読み取れる.このような判断は,実際の運用場面では有りだと私は考えます.
萩市は「記録的な大雨に関する気象情報」を住民に伝えたのかどうか,上記記事では不明瞭ですが,アーカイブが残る萩市防災メールを見る限りでは,明示的に「記録的な大雨に関する気象情報」が出たことを伝えてはいません.しかし,山口市と同様に,「記録的な大雨に関する気象情報」以前に避難勧告を出し,その中で強い表現で危険を告げていることから,ことさらに「記録的な大雨に関する気象情報」を伝えなかったという対応も,私はやはり有りだと思います.
益田市の「特別警報は報道で認識していたが、正式な情報提供ではなかったので、特別警報を住民に周知するという判断を勝手にするわけにもいかなかった」という発言は,もし本当にこの文言通りの発言だったとしたら,大変残念な発言だと思います.「記録的な大雨に関する気象情報」は,少なくとも防災情報提供システム等で自治体には「正式に」伝達されているはずで,それが認識されなかったとすれば,残念と言うしかありません.
「特別警報相当を住民に伝えなかった」という「形式」を単純に批判することは適切だとは思えません.要は,極めて危険な状況であることを知らせることが重要なわけで,「特別警報」等の情報はあくまでもそれをサポートする一手段に過ぎません.
3月19日付け中日新聞(東海本社版)に下記記事が掲載されました.よくまとめていただいたのですが,ネット上にも,また中日の記事データベースにも掲載されないので,紹介しておきます.
南海トラフ被害想定(経済被害)を受けての私のコメントです.
----------------------------
優先対策見極める材料 牛山素行・静岡大准教授に聞く
「最新の科学的知見に基づく最大クラスの地震」を前提とした今回の被害想定を、どう受け止めるべきか。静岡大防災総合センター副センター長の牛山泰行准教授(災害情報学)は「大きな数値に踊らされるのではなく、やれる対策をやることに尽きる」と訴える。
-今回の被害想定をどう見ればいいか。
数値はあくまで対策を考えるための目安にすぎない。地震の規模や震源域の評価次第で大きく変わるものであり、それを基に想定される地震や津波が大きくなったからといって、その通りの現象が必ず起きるとか、状況が切迫しているわけではない。被害を軽減するために、どこが弱いかや何をすべきかを確認したり計画したりするための資料だ。
-講ずべき震災対策が必ずしも変わるわけではない、と。
そう。大きい数値が出たから従前の対策が役立たなくなるわけではないし、われわれの社会はこれまで完ぺきに対策を取ってきたわけでもない。これまでに想定されている規模の現象に対してもやらねばならないことは多い。
数値に一喜一憂したり「何もできない」と思考停止になったりしてはならない。被害想定には典型的な被害が挙げられている。数値より起こりうる現象の種類に目を向けるべきだ。ただし、次の災害ではまた新たな課題が顕在化する可能性もあることには注意が必要だ。
-行政はどう対策の優先順位を付けるか。
優先順位は必要。しかし絶対的な正解はなく、行政でなく政治の問題だ。すべて完ぺきに対策を取るのは無理だし、その点は社会的にも認めるべきだ。今回の被害想定は、それぞれ被害の大小関係を比べ、対策の優先度を見極める判断材料の一つになる。
-原発事故は考慮に入れられなかった。
今の段階では仕方がない。種類が違いすぎる。原発事故は地震がなくても起こりうる。今後時間をかけて、それぞれ被害を評価した上で重ね合わせていくしかないのではないか。東京電力福島第一原発事故を教訓にすると称して今回の被害想定に盛り込んだとしても、それは一つの特定ケースの想定にすぎない。
9月6日付け静岡新聞の記事(本稿最後に引用)ですが,私のコメントに関し,意図と異なる書かれ方になりましたので反論を書いておきます.
この記事を読むと「(牧之原市で行われたワークショップ的取り組みは)素人のみの計画策定でありけしからん.俺様のような専門家を加えて議論をすべきだ」という感じにも読み取れます.とんでもない話で,私はこんなことは言っていません.
この取材に対しては,ワークショップ的な取り組みに関しての質問があったので,一般論として素人のみの計画策定になりかねないという課題があり,住民「だけ」でなく,市町村職員(防災担当),市町村技術系職員,県,気象台,国交省などのさまざまな専門的視点を持った人が加わった議論がのぞまれる,と回答しました.
牧之原市の取り組みについて私は詳細を知っているわけではないですし,取材でも詳細は知らされませんでした.したがって,一般論としてコメントをしたまでです.しかし,牧之原市の取り組みに「課題がある」と読めそうな記事になってしまいました.
「専門家」という言葉の意味もすり替えられてしまいました.研究者だけが「専門家」だなどとは全く思っていません.
報道記事に関してはよくあることですが「やられた」という感じです.
---------------------------------
住民自ら津波防災プラン、市計画に反映へ 牧之原市沿岸各地区
2012/9/6 静岡新聞
将来予想される巨大地震に備えようと、市民自ら防災計画を作る取り組みが8月末、牧之原市で始まった。津波で浸水する恐れのある市沿岸部の市民が「津波防災まちづくり計画」を策定する。東日本大震災後、市民主導の防災計画作りは全国でも行われていて、防災の専門家は「専門家の視点も必要」と提言する。
同月27日夜、仕事を終えた会社員や主婦などが市内で行われた「津波防災まちづくり計画男女協働サロン」に顔をそろえた。「道幅が狭い」「ブロック塀が崩れる恐れ」「近くに高台がない」―。机に広げられた地図に、参加者が避難経路で気になった点をメモに記して貼っていった。
市は2011年秋、市民と協働してまちづくりを推進する自治基本条例を施行。条例に基づき、巨大地震の津波で浸水するとされる市沿岸部5地区は、市民でつくる「津波防災まちづくり計画策定委員会」を設立。策定委員会は各サロンでの議論を元に、本年度末中に計画を作る。
計画には避難マニュアルの策定や避難場所の設定のほか、避難階段や津波避難タワーの整備などを市に要請することも盛り込む。各地区の計画は市津波防災まちづくり計画に反映されるという。サロンに参加した松浦康雄さん(68)は「命を守る真剣さが出ていた。行政と一体になっていくことが大切」と手応えを感じた。
静岡大防災総合センター副センター長の牛山素行准教授は「地域の意見を取り入れる利点はあるが、素人のみの計画策定になりかねない」と指摘した上で、「さまざまな専門的視点を持った人も加わった議論が望まれる」としている。
8月30日付け毎日新聞(全国)南海トラフ巨大地震特集面に,当方のコメントが下記のように掲載されました.
「(行政は)想定を示したのだから責任を持って安全を確保すべきだ」という考え方に私は賛同しません.災害に関する様々な情報が整備されつつあり,それらをもとに「どこで,どのように生活するか」を考えるのは最終的には各自だと思います.できること,やっておかなければならないことはいろいろあるはずです.
----------------------------
●個々人の判断材料に
牛山素行・静岡大准教授(災害情報学)
今回の想定は、そもそも東日本大震災を受けて大きな被害想定を出すために示された数字といえる。驚いたり、悲観したりする必要はない。条件設定を少し変えるだけで結果も大きく変わっており、細かい数字にとらわれることもない。浸水域や浸水深などを見て、地域ごとのリスクの濃淡を知ることに役立てればよいのではないか。
東日本大震災後は、津波に備える動きが活発だが、豪雨災害など他の災害に対しては、ここまで頻度の低い大規模なものにまで備えようとはしていない。例えば火山災害でも、今回想定された地震・津波のような低頻度巨大災害と同じような壊滅的な被害が出る可能性はある。まずは頻度の高い災害への対策から始めるべきだろう。
被害想定はもともと自治体などが防災計画を立てるためのものだが、今回の想定ほど大規模の災害に対しては、万全の対策を取るのは極めて難しい。自然に対してはかなわない場合もある.そうした場合は、そうした場合は、それぞれが納得する備えをすればよいと思う。例を挙げれば高台移転をするか、しないか。今回の想定は個々人がそういう判断をするための材料になる。
被害想定は唯一絶対のものではない。対策ができないから思考停止するのではなく、従来できていなかったことをまずやるべきだ。地震・津波災害においてすべてに優先するのは耐震化。道路や住宅が壊れてしまえば、津波からの避難さえできない。町の耐震性を上げることは、絶対に無駄にならない。